株式会社マーケティングジャーナル

 ファーマーレポート


選ばれる力
北海道の美味しいお米づくり      取材先:北海道蘭越町   

  趣向を凝らしたテレビ番組、ショーケースに並ぶ色とりどりのケーキ、休日の自由な時間の過ごし方。自分に与えられている限られた時間と資金をどれに投入するのか。大いに悩む。その果てにどうにか一つを選択する。提供する側はより多数からの選択を得られるように奮闘するが、かけた労力とは裏腹に、選ぶ側との思いがずれれば見向きもされない。かつて視聴率トップだったテレビ局が凋落することもある。何が求められているのかを感じ取ること。それを真摯に受け止めること。そして求められているものを実現すること。分かっていても実行するのは簡単なことではない。さて、生産調整が廃止され自由な米づくりが始まる。その中で如何に選ばれるものを作るのか。選択される商品力とは何かを考える。



 

 
▲羊蹄山を遠くに眺める田んぼ▲ゆめぴりか▲米所蘭越米

 

北海道で生まれた念願の美味しいお米

 ブランド米が戦国時代に突入している。収益性の向上を狙い、付加価値をつけたより美味しいお米が各地で作られるようになり、群雄割拠の様相だ。一足先に展開し安定した存在感を発揮する山形県の『つや姫』、佐賀県の『さがびより』、長崎県の『にこまる』などに加え、ルーキーとして登場してきた岩手県の『金色の風』や青森県の『晴天の霹靂』、福井県の『いちほまれ』、石川県の『ひゃくまん穀』、富山県の『富富富(ふふふ)』、そして新潟県の『新之助』などなど。うまく住み分けて共存できるものもあるが、狙いの購入層が重なるものも多く、選ばれるものの影に選ばれないものが多数ひしめき、生き残りをかけた競争が生まれている。その中で、平成21年にデビューしたのが北海道の『ゆめぴりか』。今のブランド米ブームの先駆けであり、その歩みは生産調整なき後の自由な米づくりにおいて大きなヒントとなる。競争を生き残ってきたその取り組みに選ばれるための力を探る。

 ゆめぴりかが生まれたのは上川郡比布町にある上川農業試験場。明治29年から水稲の試験を始め、100年以上も品種改良に携わり、78もの品種を世に送り出してきた。当初北海道では冷涼な気候のもと本州でとれるようなコシヒカリなどの良食味のお米が育たず、寒さに強く収量が多いお米が作られてきた。しかし美味しいお米を作りたいという思いは脈々と受け継がれ、戦後の食料不足に対する需要に応えながら、収穫量の増加と共に食味向上の課題にも取り組み始めた。その成果の一つが平成元年にデビューした『きらら397』で、それまでの北海道米のイメージを変えるものとなった。そしてついに平成21年、それまで抱いてきた“美味しいお米を作りたい”という長年の念願を叶えるブランド米として、ゆめぴりかを市場に投入。大きな反響を呼び、生産者の自信とプライドになった。現在は“北海道米の新たなブランド形成協議会” を中心に、道南地区、後志地区、日胆地区、石狩地区、空知地区、留萌地区、上川地区で7協議会を立ち上げ生産が行われている。

 ゆめぴりかの特徴はアミロースとタンパク質の含有量が低いということ。北海道米のそれまでの弱点を補うものであり、強い粘り気を持ち、冷めても美味しく、軟らかくて、炊き上がりに艶がある。都府県でそれまで美味しいとされてきたお米の特質を持つものであり、好感を持って市場に受け入れられた。平成26年からはタレントのマツコ・デラックスさんをCMに起用。プロモーション活動を強化し、高い認知度を得るようになった。

 そのゆめぴりかの生産に後志地区で力を入れているのが蘭越町。周囲をニセコ連峰等の山岳に囲まれた盆地にあり、町の中央には道南最大の河川、尻別川が貫流。一級河川の水質調査で何度も日本一となっている清流でその流域に広がる平坦地は、肥沃で水田の耕作に適し、ここで生産される『らんこし米』は良質美味として知られている。また同町では米所として、全国規模のお米コンテストを生産者が主体となって開催している。“米-1グランプリinらんこし”と銘打ち、昨年、第7回の大会が開催された。この地に全国から323品が出品され、決勝大会には28名の生産者が蘭越町に集結。日本一美味しいグランプリ米を競い合った。そんなお米づくりに力を入れる蘭越町でゆめぴりかの生産に取り組む、川崎隆行さん(68歳)と同町を管轄するJAようてい で第1ブロック営農推進センター(蘭越地区担当)のセンター長兼地区リーダーを務める土橋健一調査役に話を伺った。川崎さんはお米を中心に経営面積は7haほどで、安全・安心に注力した特別栽培米や無農薬栽培米を手がけ、アイガモ農法にも携わっている。またJAようてい の水稲生産組合長であり、ゆめぴりかの後志地区協議会会長でもある。

 ゆめぴりかの栽培において気をつけていることは、「タンパク質の含有量を低く抑えるということです」と川崎さん。ゆめぴりかとして認証マークをもらうためにはタンパク質含有量が7.4%以下でなければならない。「その数値が収入の差にもなっていきます。後志地区は低タンパクのお米が収穫できる土壌で、高品質米の生産には向いています」。しかしだからと言って、ゆめぴりかばかりを作るわけにはいかない。ゆめぴりかは収益性が高く「それまでの品種より1000円以上高く取引される」ので、生産者にとっては作りたいお米になるが、実需者からすれば業務用のお米も必要であり、「そこのバランスが大切。求められるものを供給していかなければ、お客さんが離れてしまうし、一旦離れてしまうと呼び戻すのは難しい」。実需者に信頼され、頼りにされる産地として、全体の需要を考えた調整も必要になる。そこに農協が戦略をもって大きな役割を果たしている。


日本一の米所を目指して

 北海道は広大な大地を活かした大規模な米の栽培が行われているが、寒冷な気候のため、元々亜熱帯原産の稲にとっては恵まれた環境とは言えず、「長い間、やっかい米、猫も食べない“猫またぎ米”などと言われてきましたが、美味しいお米と自信を持って言える所まで改良したゆめぴりかが出てきて、生産者の誇りにもなっています」とJAようてい の土橋さん。北海道の米づくりにおける大変な歴史を振り返れば、生産者がゆめぴりかに抱く思いは想像するよりずっと重いに違いない。その中で今北海道が目指しているのは日本一の米所。生産量においては既に新潟県と1、2位を争うところまできており、今後力を入れていくのは質の向上ということになる。「ゆめぴりかが魚沼産のコシヒカリのようになれば良いなと思います。それを目指したいですね」。そのためには更なるブランド力の向上が求められる。

 ゆめぴりかを作る全道7地区では、 “ゆめぴりかコンテスト”が開かれている。厳しい地区予選を勝ち抜いたものによるコンテストで、その年、最高品質のゆめぴりかを作った生産地が決定される。蘭越町では2年連続地区代表になったが、昨年は惜しくも選に漏れた。「全体のレベルが上がってきていて、どこの産地も本当に僅差です」。米所の蘭越町としては優勝の称号は欲しいところ。互いに競い合うことで実力の向上が図られている。

 「話題になったとは言え、ブランド力はまだまだこれからです」。消費者の支持を得るブランドとなるためにしなければならない取り組みは多く、例えばゆめぴりかを名乗っていても、栽培方法によってはタンパク質が7.4%を超えてしまうものもあり、それも同じゆめぴりかとして販売していたのでは、消費者の期待を裏切ることになる。それを防ぐため認証マークを発行している。基準を満たしているゆめぴりかを保証するもので、高い水準でブランドを守ることに繋がる。また濫造により粗悪品が出回ることを防ぐため、ブランド価値を維持するため、現在の栽培面積の上限が1万9000haに設定されている。「他の品種とのバランスもあり、この中で如何に基準品を多く作っていくかが課題になります」。生産者がまとまりを持って高い品質の生産を続けていくことでブランド力が守られていく。


栽培基準を統一してブランド強化

 お米のブランド化では、一つに新しい品種をブランド化するという方向があり、また一つには地域で生産されるお米をブランド化するという方向がある。蘭越町ではその両方を行っており、ゆめぴりかだけではなく、らんこし米として地域で作られるお米を、低タンパクのお米を育む土壌など、恵まれた自然環境の中、昔から美味しいお米が作られてきた産地としてブランド化している。その取り組みの一つが、米-1グランプリなど。1回目と7回目には地域の生産者が優勝するなど、美味しいお米の産地としてのイメージを形あるものにし、認知度を高めている。「蘭越町の生産者は量を取るという考えではなく、良いものを作るということに注力しています。自由競争になれば量より質だということになります」と土橋さん。これからのお米づくりの一つのあり方を示している。また高い品質のお米を作る方法としては「昔のようにカンで作るという時代は終わっていて、畑ごとの違いを認識し、土壌分析をしっかりやり、それに応じた施肥を行っています。それが省力化・低コストにも繋がります」と川崎さん。客観的なデータに基づく農業が質を高めることにもなっている。それは個人にとどまらず、町全体でも言える。「どの生産者のお米も美味しいお米になることが産地としては必要」。全体レベルの向上が必要であり、「基本的なことをしっかりとやっていかなければなりません」。そのために客観的な基準となる栽培のガイドラインの策定を進めている。品質を優先する目標収量や肥料の種類・施用方法、タンパク含有率の目標数値などを定めるものとなる。一定の基準を満たしたものは、認証されたシールが貼られ、品質が保証される。消費者の期待を裏切らないということであり、選ばれる大きな力となりそうだ。

 ブランド米の乱立という状況を踏まえ、もう一歩踏み込んで考えてみると、幾つもあるブランドの中で選ばれるためには他者と“差”をつけることが求められてくる。その方法を垂直方向と水平方向で考えてみると、垂直方向では今以上の品質の実現を試みるということで、お米の場合は更なる味の追求ということになるだろうか。ただ、ある程度のレベルより先に進むのは非常に難しく、ある種の限界もある。そこで“差”をつけるための別の方法として、水平方向を考えた場合、期待の多様性に目を向けるということもある。消費者の期待に対する感受性を上げるということ。消費者の期待は単純なものではなく、ただ美味しければ良いというわけでもない。安全・安心への配慮や、作っている人や場所を知りたいというものもあるし、支持できる作り方かどうかということもある。また時間と共に変わっていく指向や価値もあり、それに沿っていくことも必要となる。

 そういう一つ一つに応えていく営みは生活のパートナーとして消費者の信用を得ることに繋がっていくのではないだろうか。信用は消費者の選択コストを低減させる。比較検討の労力、宣伝文句の検証、投資に見合う効果が得られるかどうかの不安など。コスト低減は利潤を高めることであり、そこに消費者の選択を得る鍵がある。

 さらに信用は“思いを共有”しているということであり、“共感”するということだ。ブランド力の強さはその関係性にあるとも言えるかもしれない。独善的なものは期待を上回る面白さがあってもどこかで乖離する。消費者の言うがままでは多分飽きられる。一体となって“思いを共有”し、“共感”することは非常に強固な繋がりだ。日本一に至る一つの道ではないだろうか。




 

 

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