株式会社マーケティングジャーナル

 ファーマーレポート


高原の温暖化にクウシンサイで挑む
取材先:兵庫県養父市 おおや高原有機野菜部会  

  観測史上最大の暴風雨を伴った台風だとかハリケーン、災害級の干ばつや熱波など、世界中でこれまでの常識を越えた、極端な気象現象が頻発している。その猛威は家屋を破壊し社会機能を麻痺させるとともに、農作物に甚大な被害をもたらし、多数の人命にも及んでいる。その異常気象の一因は温暖化にあり、日本でも平均気温は着実に上昇し、最高気温が35℃以上の猛暑日も各地で顕著に増加。このまま温室効果ガスを排出し続ければ21世紀末には、地域によって気温は現在よりも3.3〜4.9℃上昇すると予測されている。農業を成長産業にする上で、温暖化による夏季の異常高温は収量や品質の低下を招き、農業経営に大きなリスクとなっている。今回、高原の夏季冷涼な気象条件を活かした軟弱野菜の産地を訪れ、農業を続けるための脅威である、夏季の異常高温に対する取り組みを探った。



 

 
▲高原で営まれる農業▲ハウス内のクウシンサイ▲夏取りホウレンソウ


高原の気象条件を活かした農業

 兵庫県北部、但馬地域の中央に位置するのが養父市。市の東部を一級河川円山川が流れ、西部には県下最高峰の氷ノ山、鉢伏山、ハチ高原、若杉高原が、北部には妙見山がそびえるなど、雄大な自然が周囲を囲む。2014年には国家戦略特別区域に指定され、中山間地農業の改革拠点となり、地方創生を図るための取り組みが行われている。また、神戸牛や松阪牛などの仔牛となる、但馬牛の生産地としても知られている。その養父市にある大屋町の北部、おおや高原には、地元鉱山の廃鉱による人口流失の歯止めとして、県営農地開発事業により昭和53年から10年の歳月をかけて46.8haの農地が造成され、野菜団地として18.8haが畑地となっている。標高は500〜700m。夏季冷涼で昼夜の気温差が大きい準高冷地。その気象条件を活かして、雨よけ栽培によるホウレンソウを主体とした軟弱野菜等の有機栽培を行っている。冬季は積雪のため営農期間は3月下旬から12月中旬までで、生産者は町から高原に通う“通勤農業”を行っている。

 「ここ数年、温度障害と連作障害の対応を進めています」と言うのは、おおや高原有機野菜部会の部会長を務める金谷智之さん(44歳)。これまでの経緯や高温化への対応を伺った。同部会には、新規就農者5戸を含め9戸が参加し、約13haのほ場に雨よけハウスが297棟。1棟のハウスを営農期間内に約5回転させてホウレンソウ、シュンギク、ミズナ、コマツナ、コカブ、ミニトマト、クウシンサイを栽培し、改正JAS法による有機認証を受けた有機農産物としてコープこうべへ契約出荷している。

 「県営農地開発事業で造成された当初の営農計画では、ダイコンやハクサイ、キャベツ等の露地重量野菜の生産が予定されていました」と、金谷さん。しかし、造成地の母岩に由来するニッケル障害や極度の排水不良のため変更を余儀なくされた。そこで、客土と排水対策を行い、畜産業が盛んな地の利を活かして、豊富な堆肥を活用した雨よけハウスによる有機栽培に取り組んだ。時を同じくして、コープこうべでは、有機栽培による夏のホウレンソウ産地を探していた。そこで、コープこうべと産地契約を結び、平成2年コープこうべが提唱する「フードプラン(人と自然に優しい食べ物づくり)」を基本とした有機栽培による夏のホウレンソウ生産が本格的に開始された。平成9年には同部会を設立し、自主的な組織活動を開始。同12年には改正JAS法による有機認証を取得した。雨よけ栽培によるホウレンソウを中心とした軟弱野菜の有機栽培産地として、年間出荷量は200tに迫った。


クウシンサイで夏場を乗りきる

 しかし、連作障害と近年の温暖化による高温障害でホウレンソウの品質と収量に被害が出始め、産地として大きな問題となってきた。そこで、夏場のホウレンソウの収量減を補い収益を確保するためのものとして熱帯アジア原産のクウシンサイが検討された。ただ温暖化と言えども準高冷地であるおおや高原の気象条件では、クウシンサイの栽培適地とまではならない。しかし、ホウレンソウ以上の栄養価があり、今後の市場性も期待できる事や、サツマイモと同じヒルガオ科であるため、ホウレンソウと組み合わせると連作障害を起こしにくくなる事、従来の有機肥料に適応できる等など魅力も多い。そこで何とかこの地で栽培する方法ないかと探り、ハウス栽培であれば可能であると、平成21年から出荷を開始した。「クウシンサイはしおれやすく鮮度維持が難しいので、市場と生産地が近くでないと流通が困難な野菜です。その点ここでは、従来の軟弱野菜の品質管理のためのコールドチェーンの仕組みができあがっていたので、クウシンサイの鮮度を維持したまま市場に流通させることができます」。昨年の夏場のホウレンソウの出荷量が10tに対してクウシンサイは3tの出荷量となり、夏場のホウレンソウが直面している収量減、収益減のカバーに役立っている。

 夏場のホウレンソウは市場価値が高いこともあって、全てをクウシンサイへに転換するのではなく、夏場にホウレンソウを有機栽培する産地の維持、再生にも積極的に取り組んでいる。その中で、夏季の連作障害対策のため、農薬を使用せずに消毒を行うことができる熱水土壌消毒機を全国で初めて導入した。立枯病や雑草対策として活用し、また、夏期栽培の高温時に発生する萎凋病対策としても使用している。また熱水土壌消毒機が使いづらい傾斜地での対策として、「カラシナの茎葉を土壌に鋤込んで病原菌を殺菌するカラシナ還元法を試験的に行っています」。カラシナにはその名のとおり辛み成分が含まれており、カラシナの茎葉を切断して土壌に鋤込むと殺菌成分であるアリルイソチオシアネートが生成し、土壌中を揮発・拡散することで病原菌を殺菌する。さらに散水して土壌を還元状態にすると土壌還元消毒と同じ効果が発揮される。有機農業を続けるための自然の力を利用した、環境にやさしい防除技術と言える。


消費者と共に農業を持続する

 部会長を務める金谷さんが就農するきっかけとなったのは、「コープこうべとの取引が拡大する中、生産拡大を目指した新規就農事業があり、それに平成6年、父が脱サラして応募したことです」。農業に関して全く素人だった父親を少しでも手伝うため、高校卒業後に就農した。その頃、産地見学に訪れた消費者から「頑張ってね。私たちが支えるから」と言われ、やめられなくなったと笑う。「農業の世界では、お客様から食べ物をつくってくれてありがとうと言ってもらえます。本当に農業っていいなと思います」。

 同部会は、需要者であるコープこうべや、その組合員と一緒になって産地の形成を図っており、組合員や職員を中心として年間1000名以上の産地見学や農作業体験を受け入れている。「コープこうべの組合長も、農作業の体験研修に参加される」。また、例えば台風で被害を受けた際は、バスが仕立てられ、組合員や職員が片付けを手伝いにやってくる。消費者に支えられて産地が発展してきた。そんな産地だからこそ、金谷さんは「“マラソン”ではなく、助け合う“駅伝”のように、次代に継続できる息の長い産地を目指しています」と語る。“有機農業”という価値を異常気象を含めた様々なリスクから消費者と共に守ろうとする取り組みに、明日の農業があった。



 

 

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