株式会社マーケティングジャーナル

ファーマーレポート

耕畜連携で地域の力「良質な自給粗飼料でTMR」

〜肉用牛繁殖経営に貢献〜

取材先:鹿児島県 JA鹿児島きもつき、農業生産法人株式会社 肝付アグリ

2016年12月号掲載 

 

 農業を取り巻く環境が大きく変化する中、平成30年には生産調整も廃止され、個々の農家はより自由な経営と踏み込んでいくことになるが、見方によっては弱肉強食ということにもなり、その荒波を個人でかい潜っていくのは容易くない。幾ら奮闘としても巨大な流れの中で、刃折れ矢尽きるということもあるだろう。そこで助けになるのが力を合わせるということ。一つ一つは弱くても同じ方向に歩めば大きな力になる。しかし、野生にいる草食動物が力を合わせて肉食動物に挑むなんてことはないわけで、力を合わせるということはそんなに簡単なことではない。個々の間をどうやって繋ぐのか。今回は耕畜連携にその肝を探る。

 

 
▲粗飼料生産地 ▲集積地のWCS ▲TMRセンター

 

地域の子牛生産を支援
 今回訪れたのは九州南端、鹿児島県大隅半島の中央部。平均気温が17℃と温暖で農業が盛んに行われているが、ここでも日本各地のご多分に漏れず、後継者が少なく、農業従事者の高齢化が進んでいる。その中で牧草作りに注力しているのが肝付町で活動する農業生産法人㈱肝付アグリだ。そしてそこで作られた粗飼料から発酵TMRを作り、地域の子牛生産に取り組んでいるのが鹿屋市に本所があるJA鹿児島きもつき。耕種農家と畜産農家の間を繋ぎ、地域農業の大きな力になっている。
 この辺りでは甘藷の栽培と畜産が盛ん。特に畜産が多く地域のJA鹿児島きもつきでは、黒牛の生産などが県内トップクラス。しかし、畜産に従事する者の高齢化が進み、農業を辞める人も多く、飼養頭数の規模拡大などは進んでいるが、繁殖母牛の頭数は減り、全体として減少傾向にある。現在、畜産農家の半分以上は65歳以上。ここ数年、全国的な子牛不足から、子牛の価格が高騰し、減少数にややブレーキが掛かっているものの、これからの10年を見ると大きな不安がある。そこでJA鹿児島きもつきで、取り組み始めたのが肉用牛繁殖経営における分業体制の構築。平成22年に家畜市場への子牛上場頭数の維持拡大を図るため、肉用牛繁殖雌牛1000頭の繁殖農場と哺育・育成施設をJA鹿児島きもつき、きもつき大地ファーム㈱、鹿児島県経済連が一体となって整備した。
 畜産における繁殖の部分は様々なリスクがあり、その経営は簡単にはいかない。まず根本的に出産そのものが命に関わる危険性を持っていることに加えて、出産は昼夜を問わず行われ、それに対応する従業員の苦労は多い。また経営的には、出産までに約10ヵ月かかり、その後 9ヶ月間哺育されて市場に出荷されることになり、収益が上がるまで19ヵ月間かかる。その上、出産が毎年続いていけば良いが、空白期間が生まれることもあり、中には1年以上の間隔となる母牛もいる。これだけのリスクを持って個人の畜産農家が、経営を続けることの苦労は想像に難くない。結果、後を継ごうとする者が少なく、高齢化で農業を辞めていくことになる。子牛価格の好調を背景に新規参入してくる者もあるが、その数が増えているという現状ではない。その中で、きもつき大地ファームの存在感は大きく、1000頭の繁殖母牛から、毎月80頭ほどが、きもつき中央家畜市場に出荷されている。
 そのきもつき大地ファームに餌を供給しているのがJA鹿児島きもつきのTMR(完全混合飼料)センターだ。TMRはTotal Mixed Rationの略で“家畜の要求する飼料成分を混合したもの”とされ、必要な栄養水準を持ち、不断給餌される。ここのTMRセンターでは1500頭相当のTMRを作ることができ、地域で生産された粗飼料に、地域特産の甘藷の加工に伴って農協のでん粉工場から排出されるでん粉粕や配合飼料が加えられている。TMRの約29%を占めているでん粉粕は地域の未利用資源でこれの有効活用に繋がる取り組みともなっている。また大半を占める粗飼料はTMRの63%ほどにもなり、これを地域から供給することで、農地の利用率を向上させ、地域農業の活性化にも貢献する。この3つの原料をミキサー車で撹拌し、圧縮梱包して約1ヶ月間発酵させたものが発酵TMRと呼ばれるもので、きもつき大地ファーム1000頭の母牛はこうしてできた餌によってのみ育てられている。
 このTMRの原料となる粗飼料生産を担っているのが地域の粗飼料生産部会で、4つのコントラクター組織からなり、最大の供給量となっているのが肝付アグリだ。

品質重視の粗飼料生産
 肝付アグリは今年10年目。この辺りでは昔から、農家が1頭、2頭の家畜を飼い、畦の草などを食べさせてきたが、その内、畜産農家というものがでてきて、20頭、30頭と規模を広げ、飼料作りが行われ、それと合わせ、輸入粗飼料の利用も進められていった。「設立の前に、400頭ほど牛を飼っていた農家さんが、夜遅くまで牧草の収穫をしていて、牛の面倒が疎かになり、作業が終わって牛舎に行くと出産間近だった母牛が難産で子牛と共に死んでいた。それを機に粗飼料を全量輸入に切り替えたという話を聞き、飼料作りという事業が成り立つのではと考えた」と肝付アグリの創業者、鶴田健一さん(58歳)が当時の様子を話してくれた。
 規模が大きくなればなるほど飼料づくりの負担は重くなる。そこで輸入粗飼料ということになるが、地元で供給することができれば、供与できるメリットは多い。ばらつきの無い品質や為替の影響を受けない安定価格、または防疫の面からも国産自給飼料の魅力は大きい。
 しかし、事業を始めた当初は「まわりの畜産農家さんから、そんな事業でどうやって経営が成り立つのかと言われ、まさにその通りで、最初の数年は苦労しました」。当時、農家は自前で飼料を作り、賄えなくなれば価格の安い輸入飼料を使う。少し時代の先へ行き過ぎていたのかもしれない。大隅半島の畜産農家をくまなく周り、「品質は良いね」と言われるものの、売上には結びつかなかった。苦しい時代が続く。
 しかし平成24年にJAのTMRセンターができ、経営が安定。「これでやっと救われたっていう気になりました」。現在は、イタリアンライグラス、エンバク、スーダン、WCS、稲わらを地域の甘藷農家と水稲農家の圃場を利用して200haの規模で粗飼料生産を手掛けている。従業員は鶴田さんを含めて4名。アルバイトなどが年間述べ200名ほど働いている。
 畑地の場合、甘藷の収穫が8月から始まり、収穫後、土地があき次第、期間借地を始め、翌年の5月一杯までイタリアンなどの牧草を生産する。「この辺りは焼酎用、でん粉用の甘藷を作る大型農家さんがいますので、その圃場を使用していきます」。水田の場合は収穫後の稲わら収集とWCS(ホール・クロップ・サイレージ)。WCSは作付から行う場合と収穫から行う場合があり、肝付アグリで生産する粗飼料の約半数がWCSになっている。地域ではWCSの生産が伸びており、「肝付地域にある水田660haのうち、300haちょっとがWCSになっています」。施策の推進もあり、水田の活用としてWCSを選択する農家が増えている。特にこの地域は畜産が盛んな事もあって肝属郡でのWCS生産は県内でも群を抜いて多い。
 粗飼料生産で気をつけていることはまず何よりも品質。「最初はたかが草だと思っていましたが、牧草作りは難しい。奥が深いです」。TMRの原料として最良な状態になるように試行錯誤が繰り返されている。肝付アグリの作業工程では「刈り取った後に、圃場で機械で撹拌して予乾し、水分を40~50%にしてから集草します」。でん粉粕と混ぜ合わせることなどを考えて水分量が調整されている。ただ圃場で予乾を行うということは、作業が天気に左右されるということでもある。「金曜日に牧草を切れば、火曜日か水曜日にロールにする。その間の月曜日に雨が降ると予想されていれば作業はできません」。望まれる品質を確保するためには苦労も多い。集草した草はロールベーラでロールにし、ラッピングマシンによりラップしてサイレージに。原料としてTMRセンターに搬入されるまで5ヶ所の集積地で保管される。最新の機械を導入し充実した機械力で200haの経営規模を効率よく作業している。また「普通の農家さんが機械を使う一生分を1年で使いますので、機械のメンテナンスも自分たちでやります」と、機械も含めた農業が展開されている。

連携することで地域農業活性化
 肝付アグリで作られた粗飼料はTMRセンターで繁殖母牛のエサとなり、きもつき大地ファームに供給され、そこで排出された糞尿は堆肥となり、再び肝付アグリへ。耕畜連携の綺麗な循環が作られている。「堆肥はマニアスプレッダーで10a当たり3t播き、硝酸態窒素などに注意した土作りを行っています」。また土地を借りて牧草を作っているわけで、その間にも連携があり、「刈取が終われば、深耕して綺麗に整地し農家さんに返します。農家さんは1回ロータリーすれば芋が植えられる」。後作の事もしっかり考えることが、事業のスムーズな展開に繋がるようだ。
 そういう心遣いもあって、経営面積は毎年増えていく傾向にある。特に宣伝などはしていないが、土地を借りてくれないか、WCSをするので協力してくれないかという農家が肝付アグリを訪れる。その中で課題になっているのは、畦畔の草刈。規模が拡大すればするほど、その手間は増大していく。また農地の分散も大きな問題。「平均して20a、30aの圃場が分散してあり、筆数にして400筆にもなる」。その移動と管理に大きな労力がかかっている。その改善を図るため、圃場管理にクラウドシステムの導入を進めている。さらに今後を見据え、人材の強化も必要になってくる。「私もずっと現場で作業できるわけではありませんので、次の世代を育てていかなければなりません。来年度から求人を出してみようかと考えています」。創業10年目を迎え、変化に対応した新たな形へ進化しようとしている。
 事業を始めた当初は、仕事も少なく「いつ潰れるのか」と不安を抱く日も少なくなかったが、「今は、農家さんがここをわざわざ調べてやって来てくれる。そして来年度からWCSを作りたいのだとか、相談してくれる。こういう時は誰かのために役に立っていると思え、地域に必要とされていることが嬉しいですね」。高齢化により農業を離れる人もいるが、農地の受け皿としての役割も果たしており、放棄地の抑制に繋がっている。
 「農業はやりようによっては面白い」。その一つの方法が連携していくという方法だと感じた。耕種農家と連携し、JAを通して畜産農家と連携している肝付アグリの現況にその証がある。耕種農家と畜産農家の間に入るということで、個々ばらばらにある農家を繋ぐことになり、一つの大きな力になっていく。その結びつきが農業を面白くしていく。鶴田さんの夢は「牧草の生産量で、日本一になりたい」ということ。それは連携の中で見る夢であり、その実現への歩みは、自社の発展に留まらず、地域の子牛生産量増加に貢献し、耕地の利用率向上にも繋がる。地域農業活性化の明日の形をそこに強く感じた。


 

 

過去のレポート(アーカイブ)⇒