株式会社マーケティングジャーナル

FRONT VIEW 最前線の挑戦アーカイブ

サタケ SAXESのブランド戦略 「強くて、美しいものを」

 これまで世の中に無かった新しいものをつくる。それがメーカーの使命であり、新しい価値の創造は存在意義でもある。しかし新しいものをつくるということは、そう簡単なことではなく、大きな不安を伴う。苦労して生み出しても、市場に受け入れてもらえるのか、利益を生むのか、これまで積み上げてきたものを損なうことにならないか。失敗すれば大きな痛手を被り、それが何年も重荷になることもある。踏み出すには強い気持ちが必要だ。その中、現場の想いを力にして、誕生したのが“SAXES(サクセス)シリーズ”だ。その挑戦にこれからの商品戦略を探る。 

 

  
 ▲SAXES V SDR7000V ▲印象的なエンブレム

 

 SAXESシリーズの販売が開始されたのは2018年3月。大規模生産者向けの新たなるブランドとして生み出されたもので、“強くて、美しい”というコンセプトのもと、まずは乾燥機(30石〜65石)、籾摺機(5インチ)をラインナップした。その後、第2弾として、今年の3月からはSAXES Vシリーズとして乾燥機(70石〜100石)を追加。ブランド名のSAXESはサタケ(SATAKE)×エクストリーム(EXTREME[極限])・シリーズ(SERIES)から。それぞれの単語を組み合わせてつくった造語で、“これ以上ない製品”という意味が込められている。
 SAXES誕生のキーマンとなったのは森和行氏。2017年4月に調製機事業の本部長に就任したことから始まる。「当時の機種構成は一般生産者向けが大半でしたが、農地の集積が進む中で、使用時間、処理量が大幅に増加していました。私は新潟の営業所長をしていましたが、その頃から比べると約3倍。高耐久をキーワードにプロ向け機械の企画を始めました」。“強くて美しい”機械をつくりたい。開発担当者に想いを伝えると共に、自身は生産現場を回った。「全国40ヵ所ぐらいを回り、消耗部品や交換工賃などのランニングコストが負担になっていることを明らかにし、生産者が使っている機械の消耗している部分、交換した部品などを1点1点写真にとって、どこを強化すれば良いか絞り込んでいきました」。自ら足を運び、自分の目、耳で確かめる。それで得た現場にある一つ一つの事実が、ものづくりにおける土台となり、決断を後押しし、前に進む力となった。
 その結果、強化された場所は多岐にわたり、例えば乾燥機で見てみると、お米を昇降機へと送る下部スクリュは消耗も激しく、ここは、浸炭窒化処理を行い、羽根板は二重構造にし、下部スクリュの駆動部はグリスアップできるフランジ型ユニットに変更している。その他、耐久性を向上させたバケットベルト、高防塵性ベアリング、コンベアケースや昇降機上部のステンレス板などを採用。また摩耗を抑えるための形状変更などが行われている。さらにユーザーから強く要望されたのはコンタミネーションへの対策。ブランド米、飼料用米、業務用米と品種が多様化し、品種切り替え時の作業負担が大きくなっていた。「乾燥部の形状を変更し、乾燥部横を開閉し工具なしで取り外し可能なスクリーンを装備しました。また、点検扉を作って、上まで登らずに容易に中に入れるようにしました」。内部清掃・メンテナンスの利便性を高めている。加えて点検扉には張り込みすぎた籾を機外へ排出するシャッターを装備。プロ用の機械として安全対策にも十分な配慮を行い、安全ガード付きハシゴを標準装備。取り付け位置は前方、左右側面、後方の5ヵ所から選択でき、ファン横のデッドスペ−スに取り付ければ従来の設置スペースで対応できる。
 デザイン面では「中身が変わっても外見が同じであれば変化を感じて頂けない」と森事業本部長が提案した“強くて美しい”をコンセプトに、新たな形が与えられた。中心となったのは現在広報部広告デザイン課でクリエイティブディレクターを務める大滝直司氏。「揺るぎないビジョン、コンセプトがあったので、ネーミング、ロゴ、機械のデザインと、非常にスムーズに進みました」。強い気持ちが新しいものを生み出すときに大きな力となる。これまで従来機で使い続けてきた商品カラーも変更し、重厚感のある黒を採用。カタログも一新。プロモーションにおいても、SAXESのホームページを立ち上げ、WEBを活用した展開を進めていった。さらにサービスにおいても、2年間の無料点検を付帯するなど、きめ細かな対応を行っている。
 「これまではサタケという企業ブランドしかなかったのですが、今回初めて、事業ブランドを生み出すことができました」。森事業本部長にとっても会社にとっても新たな一歩を踏み出すシリーズとなった。
 通常の機械は与えられた作業をただ処理するだけのものというのが一般的だが、高い機能や美しいデザインは購入者に“所有する喜び”を与える。「綺麗に使って頂いている方も多く、コントロールボックスの保護用ビニールを取らずに使ってくださる方もいます」。SAXESの強さと美しさが、ユーザーに新たな価値として受け入れられているようだ。
 販売実績も伸張しており、強い存在感を持つブランドに成長している。その原動力になったのは、何よりも現場を回って丁寧に拾い上げた、一つ一つの事実だ。それが慣習や未知への恐れに怯まない強さを与え、ブランドに魅力を吹き込んでいる。
 SAXESシリーズの第2弾はSAXES Vシリーズで今年の3月から、70石〜100石の乾燥機を追加した。こちらの機械開発でも現場を30ヵ所ほど回り、課題を抽出。その中で設置スペースの問題に取り組んだ。「全国を回って乾燥機の大きさを測りました。その中で横幅を伸ばし、全高をミリ単位でオーダーできるようにしました」。またフロントパネルのV字型LEDにより、穀物水分域を表示し、直感的に乾燥状態を把握することを可能にした。強さと美しさがさらに進化している。
 これからの展開は「ポストハーベスト全体のSAXES化ですね。ICTも含めたスマート農業なども取り入れながら。収益の向上や人手不足の解消に貢献できればと思います」。

 新しいものをつくるのは簡単じゃない。反対意見もあるし、自分の弱さもある。それに屈せず進むための、強さは現場の中にあると感じた。それを得て、新しい事にチャレンジする。「壁を乗り越えなければ次にはいけません。今の延長上に成功はないのです」。ブランド戦略の中に、価値を創造し前に進むのだという強い想いが込められていた。 


 

SAXES V

①ミリ単位で乾燥機の高さを調整し、最短2週間で出荷可能(全高5685㎜~7435㎜の範囲)。②安全ガード付きハシゴを標準装備。乾燥部スクリーンが取り外し可能。人が出入り可能な点検扉を設置。③フロントパネルに組み込まれたLEDライトが異なる発色で水分域を表示する。④バケット幅10˝の昇降機搭載。張込、排出能力が従来機種比で最大70%向上した。⑤サタケフレンドリークラブへ入会するとスマホやタブレットによる遠隔監視が可能。

 


オーレック グリーンラボ・ブランド発信拠点の挑戦 産地に近づき情報を発信する

 世界には物が溢れている。供給が需要を創り出すという時代は過去に過ぎ去り、同じ用途に使える商品が幾種もある中で、需要者に選ばれる商品を作っていかなければならない。また選ぶ側も数多ある商品の中で一つに決めなければならない。多大な労力と時間、時には費用も伴う作業。そこで供給者と需要者の間にブランドを介した新たな関係が生まれる。ブランドは他商品との差別化を図り、また商品選択のコストを下げることにも繋がる。多くの信頼を得るブランドは確固たる存在感を発揮し、また双方に喜びをもたらすものでもある。そのブランドのリニューアルに取り組んでいるのがオーレック。取り組みの一つである“ブランド発信拠点グリーンラボ”の挑戦を追う。 

 

  
 ▲グリーンラボ長野 ▲グリーンラボ弘前

 

 オーレックは本年創業70周年を迎えるが、それに先立って、ブランドのリニューアルに着手し、新コンセプト“草と共に生きる”の展開を進めている。その一環としてオーレックブランドを体感できる施設、オーレック・グリーンラボが開設された。営業所とショールーム機能を兼ね備えたブランド発信拠点で、コミュニケーションの場を形成し、現在、長野市と青森県弘前市で、メーカーとユーザーの距離を縮める機能を担っている。同社では「今の世の中に無いものを作りたい」との想いがあり、“世の中に役立つものを誰よりも先に創る”という企業スピリッツの延長上に同施設もある。
 グリーンラボ長野は、多くのリンゴ農家が集まる果樹地帯にあって、その中を通り抜けていくアップルラインと呼ばれる国道18号線に面し、全面ガラス張りの開放的でハイセンスな外観が特徴的。2016年の5月にオープンし、営業所を兼ねたショールームでアフターサービスも行っている。施設内には、同社製品の主要機種を常時30台以上展示。見て、触って、実際に動かし、乗って、体感することができる。所長を務めるのは津田徹さん。「前を通りかかった人はとっても気になるようで、一度来てみたかったと言う人や非農家の人も来られます」。農家が機械購入のための情報収集に来るのはもちろん、好奇心を満たすために来る人や、農業に関する広範な情報交換をするために来る人もいる。またコミュニケーションスペースとして「展示会や機械の講習会などをこの場所で開いています」。
 ショールーム機能としては商品を選択する上で、「現物を前にして、実際に見て乗ってもらいコミュニケーションを取る中で、本当にユーザーに合った機械をご提案できます」と、生産者に寄り添う形で大きな力となっている。実際の購入については、各自が近くの販売店に行く形となる。また営業地域内の販売店では、お客さんを伴って施設を訪れ、現物を前にして説得力のある説明が行え、不安や疑問を解消できる。販売店の売上向上に貢献できる施設だ。
 「グリーンラボ長野ができて関連機械の売上は伸びています」と言うのは、同施設の真向かいに店を構える北信農機具㈲の中村弘行社長。高所作業車、SS、乗用草刈機などを扱いながら、地域の主力となっているリンゴ栽培の機械化に貢献している。「オーレックに関心を持たれるお客様をこちらにお連れして、機械をじっくり見てもらいます」。カタログだけで説明しても、新規顧客やその機械が初めてという人には、伝わりにくい部分もあり、販売店が説明用も兼ねて機械を在庫する例もあるが、「本来ならできるだけ在庫は持ちたくありません」というのが販売店の本音。その想いに応えているのがグリーンラボでもある。現在、北信農機具ではオーレック関係の在庫を多くは持っていないが、十分な営業ができている。「本来販売店がする仕事を替わりにやってもらっているようなもので、大変助かっています」。
 「産地に近づき、コミュニケーションをとって、情報を発信する」と津田所長。販売店や生産者との距離がぐっと縮まっている。また、産地の真ん中で、いつでも誰でも受け入れるオープンな施設を作ることで、「見られているという意識が私たちに出てきました。それは相手を意識するということで、常にお客様のことを考え、期待に応えていきたいという気持ちに繋がります」。その積み重ねがブランド力を高めていくことになる。
 長野に引き続いて昨年12月にオープンしたのがグリーンラボ弘前。青森と秋田を管轄し、青森のリンゴ栽培の中心地にある。その隣にはユニクロが店を構える国道7号線沿いにあって、全面ガラス張りの建物の注目度は高い。長野と同じく営業所を兼ねたショールームであり、地域コミュニティーの場所としても機能している。「オープンして半年あまりですが、近隣生産者との親密感は増しています。リンゴ農家さんの会合などにも使ってもらっています」とグリーンラボ弘前の道広卓也所長。生産者の身近にあるメーカーとして、その認知度向上を図っている。さらにもう一歩踏み込んで実現しようとしているのが、「生産者の方々としっかりコミュニケーションをとって、要望をお聞きし、弘前発の機械を作りたいと思っています」。既にその取り組みも形となりつつあり、生産者との絆を育むものとなっている。
 「フィードバックができる体制を整えてくれているので、すごく良い製品ができると思います」と言うのが、㈱釈迦のりんご園社長の工藤秀明さん。オーレックが製品開発のアドバイスを受ける生産者の一人だ。弘前にグリーンラボができたことで、要望に対する対応力が増し、出てくる製品に対する期待も高まっている。
 グリーンラボ弘前から30分ほどにあるのが㈱釈迦のりんご園。平川市の広船地区に位置し、県内でも品質の良いリンゴの産地として知られる。その中で、青森県りんご品評会において、親子三代にわたり、最高品質の全県第一席を受賞している。リンゴ作りの秘訣は「植物の生理をしっかり学ぶことです。こちらの都合を押しつけて、無理に多くとったり、赤くしたりせずに、リンゴにストレスをかけないで育てれば良い物ができます。土と葉っぱにこだわって、最高級の有機肥料を使い、リンゴが持つ力を120%引き出します」。こうして生み出されたリンゴは東京銀座の高級果物店を中心にして販売され、味・品質に対して極めて高い評価を受けている。
 その中で、オーレックの乗用草刈機ラビットモアーが活躍している。使用しているのはRMK160。傾斜のある園地でも存分に働き、オフセット部が機体の横からせり出し幹周の草刈りなどが楽に行える。「除草剤は使いませんので、これが無いときは、鍬などを使って木の下の草を処理し、手は豆だらけで大変でした」。大幅な労力削減を実現している。工藤さんの草刈りは「なるべく自然の状態にしたいので、草はあまり短くせず、紫外線から土を守り、微生物を生かしています。そうでないと美味しいものはできません」。オーレックの機械はその栽培方法に合致するものとして選択されたもの。「よく作ってくれたと思っていますよ」。使用の満足度は高いようだ。
 弘前にグリーンラボができ、オーレックと生産者の交流はより深いものとなっている。単に製品の作り手とその使用者という枠組みを越え、施設は情報交換や会合の場として使われ、また製品に対する要望を積極的に出し、それが新しい製品となって具現化しようとしている。道広所長は「ここで喜ばれる機械なら、全国どこに出しても、さらに世界でも通用する。しっかりとコミュニケーションをとりながら、諦めずに取り組んでいきたい」と、これからの目標を語ってくれた。 

 そんなメーカーと生産者の関係性の中に、“草と共に生きる”というブランドコンセプトが見えてくるような気がした。“生産現場の近くで常に生産者と共にある”という姿勢を基盤に想いを共有していくということで、メーカーとユーザーが共に育むブランドとも言えそうだ。ブランド構築は一朝一夕にはいかない。地道に信頼に応えていく積み重ねである。ただその分、生み出される価値は持続性があり大きなものとなる。100周年に向けた礎となるに違いない。オーレックの挑戦は続く。

 


 

■グリーンラボ長野

▷所在地=長野県長野市赤沼1896-50、▷電話番号=026-295-0235、▷構造規模=木造在来工法1階建て、▷延床面積=1873.05㎡。

■グリーンラボ弘前

▷所在地=青森県弘前市神田4丁目2-5、▷電話番号=0172-40-3077、▷構造規模=鉄骨造・平屋建て、▷延床面積=759.55㎡。


ヤンマー 密苗播種・移植システムへの挑戦 苗箱数を減らして経営効率化

 「常識を疑え」。世界を変える物がそこから生まれる。しかし言うは易く、実践することは難しい。コロンブスに卵を差し出され、「さぁ立ててみろ」と言われても、常人は戸惑うばかりだ。常識という名の卵の殻はなかなかに分厚い。これまでの先入観を捨ててそれを打ち破るためには、懸命に思考を重ねていかなければならない。今回の「フロントビュー最前線の挑戦」は、そんな卵を立てるような話。密苗という新しい方法が日本の米作りを変える。

 

 

  
 ▲佛田社長と伊勢村部長 ▲左の苗箱が密苗、右が慣行の苗

 

 農業を取り巻く環境が大きく変化していく中で、経営を持続するためのコスト削減要求が高まっているが、加えて、規模拡大や高齢化に伴う労力削減も求められており、その中で生まれてきた一つの技術が密苗播種・移植システムだ。育苗箱に通常なら種籾75~100gの所、250~300gの高密度の播種・育苗を行い、それを精密な掻き取り性能を持つ田植機により従来通り1株3~4本で移植し、10a当たりに使用する育苗箱を慣行の20~22箱から5~6箱に削減する。大幅なコスト削減と労力削減、時間とスペースの有効活用をもたらす。
 始まりは生産者の現場目線から。取り組みの中心にいる㈱ぶった農産の代表取締役社長佛田利弘氏(55歳)に話を聞いた。同氏が5年前、石川県羽咋市にあるアグリスターオナガの濱田栄治氏の田んぼを見せて貰った時、「10a当たり何箱で植えているのかを聞くと、200gの播種で10箱との事。それでもお米は穫れると言うので、次の年の春、密苗を作り既存の田植機を調節して、10a当たり7箱で試しに植えてみました」。その時に石川県農林総合研究センター農業試験場の澤本和徳主任研究員(当時)と現在ヤンマー農業研究センターで部長を務める伊勢村浩司氏(51歳)が田んぼを訪れて見学し、その取り組みに参加する事になる。
 試しでやったその時の苗は以降順調に育ち、反収にすると700㎏に及ぶ所もあった。「従来からやっていることを肯定的に考えすぎないことが大事。自分がやっていることはこれで良いのかと常に考えるべき」。その姿勢が卵を立てることに繋がる。ただ簡単なことではない。同じことを続けることが1番楽なのだから。しかし、それでは現状維持さえ難しくなっているのが今の日本農業の現実だ。
 ぶった農産は、石川県野々市市を拠点に水稲28ha、かぶ0.7ha、大根0.5haの栽培規模で、お米と野菜の生産・加工・販売を展開している。時代の流れに対応しながら、個人通販、業務用の契約販売、本社店舗や金沢駅構内店舗で加工品などを販売するなど、意欲的な農業経営を進めている。この技術にしてもコシヒカリが一俵2万を超えていたような時代だったら「こういう発想は生まれなかった」と佛田氏は言う。「自分たちが生きていくためにどうコストを下げるかという強い経営課題を課せられたからこそ」。農業持続の強い意志が生み出したとも言えそうだ。
 密苗播種・移植システムは、2013年、2014年に石川農試で実証試験が行われ、それと平行してヤンマーで高精度な掻き取りと移植を実現する田植機の開発が行われた。ぶった農産ではこの方法による栽培を3シーズン行い今年4回目。
 実際の栽培では1つの育苗箱に乾籾250~300gの播種を行うところから始まる。ぶった農産では300gの播種を行い15~17日間育苗し、葉齢2~2.3のものを移植する。10a当たり1.5㎏の種籾を目安として、従来のやり方では75gの播種を行っていたので育苗箱は20箱となっていたが、4倍の300gで播種するため、苗箱数は1/4の5箱となる。「30aなら15箱ですむので、8条植田植機なら苗の補給せずに“お1人様田植”ができる」。補助作業員が必要なく、繁忙期の人員を少なくすることができ、苗箱を運ぶことが多い「女性に喜ばれます」。
 また育苗期間が75gだと35日ぐらいかかるところを、この育苗方法なら15~17日と短いこともあり、ハウスの稼働率を上げることが出来る。ぶった農産の場合、苗箱の数が1/4、育苗期間が1/2、合わせて8倍の効率アップとなる。「稲作経営の複合化を進めるにはハウスの余剰スペースを如何に活用するかが課題になりますが、それへのアプローチに繋がります」。
 密度の高い播種により、20日を超えると生育停滞が生まれるため2~2.3葉の幼苗を植えることになるが、マット形成は極めて良好で、掻き取りブロックが小さくなっても、極端な深水でなければ通常の田植えと変わらない。また移植後の「活着が良く、若くして植えた方が分けつは旺盛になります」。それは昔から経験として知られていたことであり、今回の試みによって古い智恵が再び表に出る形となった。「再現性の高い技術が有れば、それを確かめていくことが大切」。昔の経験や言い伝えを検証してみることは今の常識に捕らわれない一つの方法と言えそうだ。
 田植後は慣行栽培と同じ。「最初は苗が小さいので10日間ぐらい我慢できるかどうかということ。気持ちの問題です」。特別なことを一切することなく、量・品質とも従来法と同等水準の成果を得ることができる。
 ヤンマーではこれを実現するための田植機を新たに開発。「小さな面積を掻き取らなければならないので爪の幅を細くし、掻き取り量のバラツキを少なくするため、ギアのガタつきを抑え、精密な加工と組み立てを行いました」と、農業研究センターの伊勢村部長が教えてくれた。対象物が細密になったことで従来のスペックを上回る精度が要求され、それに応えるために精密な加工技術を駆使。加えて、これまでの技術が研ぎ澄まされていった。その先に現場の要望を満たす機械が誕生した。そこには技術の進歩だけではなく、物づくりに対する地力の高さが感じられる。また「田面の凹凸を自動で感知して起伏に応じて同じ深さで植えることが出来る機能も搭載します」。誰にでも密苗播種・移植システムが実践できるものとなる。播種機に関しては送りギヤの歯数を変えるだけで対応可能。
 密苗播種・移植システムのメリットは育苗箱が減る、資材費が減る、育苗スペースが減る、運搬・苗継時間が減る、そして従来と同じ管理方法で同様の量と品質を確保するなど。大規模農家から小規模兼業農家まで対応できる。また、直播と違って草の処理は従来の移植栽培と同じなので特別栽培米や有機栽培米にも対応できる。さらに慣行移植栽培と同様の安定した収量なので契約栽培などにも適している。
 「将来的にはこの方法が移植栽培の50%を占めるのではないでしょうか」と佛田氏。それは日本の稲作を変えることに繋がる。常識を超えて生まれた新たな技術に期待したい。

 


 

■密苗播種・移植システム
《システムの流れ》①1箱250~300g播種、②15~20日間育苗、③3~4本を正確に掻き取り、綺麗に植付、④移植後管理は慣行と同じ。
 《低減効果》水稲30ha経営で現行の播種量100g/箱を300g/箱にした場合。▷育苗箱数=1/3(4500箱→1500箱)、▷ビニールハウス=1/3(9棟→3棟)、▷播種及び苗運搬時間=1/3(195時間→65時間)、▷育苗資材費[育苗箱、培土、ハウス資材]=1/3(145万→67万)。


クボタ グローバルメジャーブランドへの挑戦 先端技術で暮らしを支える

 現在世界の人口は約73億人。国連の最新予測では2050年には97億人を超えるとも見られている。それは繁栄でもあるが憂いでもあり、優良な農地が無尽蔵にあるわけではなく、水資源も限られ、異常気象が頻発し、新興国の食生活も変わるわけで、充分な食料を確保することは容易なことではない。食を生み出す農業を持続的なものにし、レベルを上げていくことが求められる。農業機械・システムの果たす役割は今後益々大きい。その中、クボタではグローバルメジャーブランドを掲げ、世界で評価される先進技術の開発に力を入れている。それは人類の生存という世界的課題に対する挑戦にも繋がっている。

 

 

   
 ▲世界に通用するトラクタを開発  ▲食味&収量センサ搭載コンバイン

 

 クボタでは技術成果をまとめた「クボタ技報」を年1回発刊している。そこに掲載されているのは、現況農業の課題に対応するための最先端技術で、これからの農業が向かう一つの姿を読みとることができる。昨年12月に49号が発刊され、世界に視野をおいた畑作用機械市場への本格参入機、農業革新に導くスマート農業の提案、北米向け小型建機ラインナップなどの特集と共に、食料・水・環境関連の幅広い分野での技術・製品を一般の論文や技術レポートとして掲載した。そこにクボタが目指している農業の明日がある。大型トラクタ、排ガス規制対応エンジン、KSASについて紹介し最前線を追う。

 世界の全耕作面積の内43%は小麦作などを含めた畑作。世界的な食料確保の課題解決に貢献するためにはまずここに参入しなければならない。そのための一歩が、97~127kWの大型トラクタM7シリーズだ。開発にあたっては、重負荷作業に対応した車格を有し、無段変速/クローズドセンタ油圧システム/高度電子技術の搭載、競争優位性の確保などが課題となり、それを短期間にクリアすることが求められた。そこで採用されたのが欧州コンポーネント会社との共同開発。新規開発が必要だった無段変速/クローズドセンタ油圧システム/高度電子技術の短期間獲得を可能にした。その中で、これまで実現されてなかった副変速段を跨いでの自動変速を実現し、マルチファンクションレバーの前後操作で加減速及び速度設定が行えるDrive Stick modeを新規開発した。またエンジンは、クボタV6108を高出力化。自社製エンジンを使用することでコスト競争力を高めた。さらに、競争優位性に繋がる技術として、マルチファンクションレバー、オールインワンターミナルの開発を行い、大型トラクタとして求められる機能を満たしながら、クボタの強味である「扱いやすさ」を活かし、積極的な市場展開を進めつつある。

 このM7シリーズに搭載されているV6108-TIEF4ディーゼルエンジンは、畑作大型農機に適合するために大幅な出力増加を実現し、かつ排ガス最終4次規制にも対応している。高出力に伴う熱負荷や燃焼圧力の増大に対応するため、冷却性能の向上と、耐久信頼性の確保を図り、従来機比26%の出力増加を可能にした。また排ガス規制に対してはオリジナル排ガス後処理装置尿素SCRシステムを開発。さらに、LPL-EGRを新たに導入し最適化したターボを組み合わせることでNOx排出率27%減、PM排出率30%減を達成した。

 現況の課題を解決するためには機械の大型化、高性能化だけではなく、しっかりとした利益が残る農業経営を実現し、農業を持続していくことが必要だ。そのためのソリューションとしてICTを活用し、農業機械と連動しながら営農支援、経営支援ができるクラウドシステム「クボタスマートアグリシステム(KSAS)」を開発した。モバイル端末を用いることで操作性の良さと高機能を両立し、機械からWi-Fi通信でモバイル端末にデータを圧縮して転送することで、多種多様な情報の送受信が容易となっている。信頼性と応答性を両立した通信方式の確立、無線ユニットの共通化、通信圏外対応、無線通信による機械操作の実現、簡単操作とセキュリティーの両立などを実現。通信圏外が少なくない農村部での使用では、データを一時的にモバイル端末の中に蓄積する機能を構築。通信回線が回復した後にサーバへデータを送信する仕組みとし、通信環境が悪い場合でも安心して使用できる。国内担い手農家の経営改善に貢献する。加えてより大規模な圃場管理が必要な海外においても、このような営農支援システムに対する期待は大きい。
 ICTを活用して農業を“見える化”することは、食味向上によるブランドの確立や安定した高収量を可能とし収益確保に繋がる。これを実現するために圃場ごとの食味・収量を測定して収穫情報を“見える化”できる食味・収量センサ搭載コンバインを開発した。収穫作業中に籾のタンパク質含有率測定が可能な食味センサは世界初の技術。
 収穫情報は、モバイル端末を介してKSASクラウド環境に保存され、容易に分析・活用することが可能で、そのデータを利用した施肥設計支援システムも開発した。縦軸に収量、横軸にタンパク質含有率をとった食味・収量分布図により、圃場毎のバラツキが把握しやすくなり、優良圃場と改善が必要な圃場の識別が可能となった。それに基づき、3年間のべ60箇所で改善を進めた実証試験ではタンパク質含有率・収量のバラツキが大きく改善され、平均収量が17%アップした。また、作業対象の圃場を間違いなく特定できるモバイル用のアプリも開発。GPSによって目的圃場と自分の位置を確認しながら移動し、確実な施肥を行う。さらにKSASサーバからの施肥情報を受信することで目標値に自動調量できる施肥量電動調量ユニットを開発。田植機に搭載して使用し、施肥量を間違うなどの人為的なミスを抑制する。鉄コーティング直播にも対応している。

 これらの取り組みから浮かび上がってくるのは、農業の進化を促していこうとする思いだ。それは世界の農業シーンでも貢献できる最先端の技術開発に繋がっている。その先に世界の人々が争わずに食べていける持続可能な世界を捉えながら。大きな価値と意義のある挑戦がそこにある。

 

 


   
 ▲ICTを農業に活用  ▲クボタ技報NO49

 

 

 

■クボタ技報 NO.49
研究開発統括部が事務局となって年1回発行。体裁はA4版、96頁。
▷内容=特集論文(本格畑作向けM7シリーズトラクタ(97~127kW)の開発、畑作大型農機搭載V6108-TIEF4ディーゼルエンジンの開発、KSAS通信技術の開発、食味・収量センサを搭載したKSAS対応コンバインの開発、KSAS対応田植機ZPシリーズの開発、北米小型建機ラインナップ化)、一般論文8編、技術レポート2編

 

 

 

アグリテクノ矢崎 地域農業活性化モデルの挑戦

 「敬天愛農」を経営理念とするアグリテクノ矢崎。福光康治社長は地球に生きるものとして「正しい生き方」、つまり天を敬い、生きるために重要な農業を愛し、人類と社会発展に貢献することを目指している。その中で岡山県高梁市では市と協力し「農業試験研究施設」を展開している。その最前線を探る。


   
 ▲挑戦を語る福光社長  ▲豊かな自然の中にある施設

 

備中の小京都と呼ばれる岡山県の高梁市。この地で高校再編により閉校となる高校跡地の利活用としてアグリテクノ矢崎と市が協力して設立したのが「農業試験研究施設」だ。同市では、“地域産業・地域資源を活用した活力ある町づくり”を掲げており、これにアグリテクノ矢崎が、同社の保有する農業技術・農業機械を活用し、「中山間地の実情に合った農業のあり方を追求したい(福光社長)」として20114月に発足した。

同社では農業事業部が中心となって農業に参入し、事業成長のための基盤強化と地域への貢献をテーマに始動。まずは地域に適した農産物の栽培研究・開発と試験栽培を開始した。水稲では湛水直播、野菜はゲル被覆種子による発芽率を高める研究(夏採りホウレン草等)、トマトの省力接木技術・土壌病害対策研究、果樹ではブドウの新品種及び地域導入技術の実証栽培、花卉は高齢者でも作りやすい作物の研究などを進めた。

また農作業省力化のために急傾斜の耕作不利地に適した農作業機材開発、農産加工機の開発に着手。

さらに農業の担い手育成研修として、新規就農者などを対象にしたトマト・ピオーネ・ピーチスクール等への開催協力や担い手に対する技術指導などにも取り組んだ。

農場は南部と北部に分れており、南部(21a)ではゲル被覆種子の実証栽培、農業機械の実証試験、北部(91a)は新規作物実証栽培、農業機械の実証試験、トマト用等パイプハウス、温室7棟で実証を続けている。

同社独自として、トマトは32a6400株)の養液土耕栽培、ブドウは53a(ピオーネ、オーロラブラック、瀬戸ジャイアンツ、シャインマスカット)を栽培し、水稲では350aを作付けし、いずれも市場に出荷している。また、作業受託270aを請け負っている。

経営所得安定対策事業(転作:飼料用米)、中山間地域直接支払交付、経営体育成支援事業助成、地域農業再編促進事業補助を受けている。

この他、新規作物として花栽培で「タネまる」によるシンテッポウユリ、トルコキキョウを栽培し、トマト、ぶどうなども道の駅や直売所で販売している。

 

福光社長のコメント

我々が実際に農業に取り組み市や農家と協力し、新しい農業のあり方を追及している。1年、2年の短い時間ではなく、長期的な取り組みをしていく。中山間地で高齢化が進む地域の活性化のモデルを作りたい。

これからの資本主義の投資先として最も有望なのは農業。人口が増え、食料が不足する。農業は間違いなく希望のある産業。まして農村には道徳、哲学、倫理に基づく文化があり、これを大切にしていかなければならない。

 

 

2015年6月掲載 ササキコーポレーション マックスハローACEの挑戦

 新しいものを作るということは価値を創造する行為だが、生み出すためには苦しみや困難も多い。それを乗り越えるためには知恵や忍耐が必要で、従来からあるやり方を変えようとするのなら、勇気も必要だ。流れに棹を差して振り向いてもらおうと言うのだから。しかし、それでもなお挑む人たちはいる。自分たちの目指す理想に近づくために。今回の「フロントビュー~最前線の挑戦~」はササキコーポレーションの代かき作業機マックスハローACE(エース)。理想の代かき作業を追求するその歩みを追う。


   
 ▲戸田部長とACE  ▲新開発のCK爪

 昨年の11月から本格的に販売を開始したのが“超耕速代かき機マックスハローACE”。これまでの代かき機を根本的に見直し、作業効率を大幅に高めることに成功した。「水田作業のスピードアップを図る中で、ネックになっているのが代かき作業。田植機などの高速化に比べ、多くの労力と時間がかかっていました」と、技術開発部の戸田勉部長が、開発の経緯などについて教えてくれた。「代かき機を作ってきたメーカーとして、長年、作業の高速化に取り組み、求める所にある程度達したのが今回のマックスハローACE」。車速を上げても均平性能が高く、綺麗な仕上がりを実現する。


 開発においてまず目標となったのが、「従来の半分の時間で代かき作業をしようということでした」。行政が打ち出した生産コストの40%削減を受け、それに対する一つの答えでもあった。そのために実際の作業速度を上げること、あるいは作業精度を向上させてより少ない作業工程で綺麗に仕上げることを目指した。荒代から始まって、数回田んぼに入って望ましい土の状態を作っていく生産者が少なくないが、「代かきの作業機を手がける上で究極の目標は一回走らせただけで終わること」。それをいつか叶える目標と見据えつつ、従来の既成概念を超える新しい代かき機開発の挑戦が始まった。


 その中で様々な新機構が開発されたが、まずはトラクタを速く走らせても砕土性を充分確保するために、新たな爪が生み出された。「従来のものは叩いて砕くというタイプで、速度を上げて耕うんピッチが広くなると、砕土性が悪くなる」。そこで試行錯誤の末、たどり着いたのが、従来の“叩いて砕く”方法に“カット”する機能を加えたCK爪。「新しい爪は叩くと同時にカットしながら土の中に潜り、土を後ろにただ吐き出すのではなく、抱え込むようにして持ち上げ、更に内部スペースの中で面によって叩き、撹拌するので高い砕土性を得ることができました」。その結果、爪は全く新しい形状となり、従来開発してきたものの延長線上から離れることになった。「心臓部である爪を変えるということは大きなリスクで、本当にここまでして良いのか」との心配もあったが、現場に足を運び、農家さんの話しに耳を傾けてみると「そういう爪が欲しいと思っていた」との声もあり、それを一つの拠り所として開発を前に進めていった。


 高速作業を実現させるためには、砕土だけではなく、高いスキ込み性能も求められる。土塊、稲株、ワラを浮かせることなく確実に埋没させていくために、可変式一体型ウルトラロングレーキとステンレスショートレーキを同じ第一レベラーに装備。加えてロングレーキの間にショートレーキを配置。これらにより、「2段階で確実にスキ込んでいきます。またCK爪により抱えられた土が上に乗ることもあり、より綺麗な仕上がりとなりました」。


 さらに、作業するトラクタのタイヤ・クローラ跡が残らないようにするワイパーブレードをダブルにした。「可変式で、トラクタに合わせて最適な位置に調整することができ、高速でもタイヤ跡が気になりません」。この他、大型トラクタに対応したフロントウェーブガードの延長、土の流れを内側に変える作業機両端の整流リブ付ウェーブサイドレベラー、土質に合わせた整地圧を自由に調整できるレベラー調圧機構など、「それらが相乗することで、高速作業でも高い均平性と綺麗な仕上がりを実現します」。加えて耐久性も高めプロ農家のニーズに応える。


 しかし、「ただ、作業が速い、綺麗と言うだけでは商品化できません。最終的なお米の収量、品質が大切です」。粘土、砂地、火山灰土、黒ぼくと各地各地区で土質は様々。水持ちの良い田んぼ悪い田んぼがあり、「様々な場所で高速作業や、田んぼに入る回数を減らした代かきを試して、生育状況を確かめました」。その上で、代かきの機能を充分果たしていることを確認し、世に出ることとなった。名付けられた商品名はACE(エース)。高い実力を持って代かき作業の課題に挑み、生産者の困りごと解決に貢献する。


 実演会を通しての普及では「最初その性能に対して半信半疑の人も多くいました」。You Tubeにアップした実演会の模様を見た人からは早送りにしているのではないかと言われるほど。しかし「実作業を見ると性能が本物だと納得して貰え、驚きの顔に変わる」。ワラの多い所や麦跡でも速さと綺麗な仕上がりでその実力を示している。またそのような実演会などを見て、「これまで当社の機械を使ったことがないという生産者の方に対しても良い評価をもらうことができ、当社を認めてもらうことに繋がっています」。


 作業の本質的な部分に踏み込み、そのレベルを向上させる商品開発が、開発者、ユーザー共に新しい可能性を開いた。ササキコーポレーションが“開拓”の精神で手がける最先端の挑戦が農業の力となっていく。ACEは水田農業の集約化に貢献しそうだ。

 

2015年4月掲載 サタケ GABAライスの挑戦

 夢を語るだけなら誰にもできるけれど、それを実現するのは難しい。現実の中に形として留めるためには多くの知恵と力が必要だ。新しいものを生み出し育てるのは簡単なことではない。しかし、それでもなお挑む人たちは多い。憧れや冒険心、あるいは危機を乗り越えるため、上を目指すため、思い描く自己を実現するため。企業だって同じこと。困難はあっても挑戦することが抱く理想へと歩ませる。その道程こそが進歩であり、歩む者を強くしていく。「フロントビュー~最前線の挑戦~」として、様々な挑戦を追い、日本農業活性化の道を探る。今回はサタケGABAライスの挑戦。


     
 ▲おむすびのGABA西条店  ▲GABAライスのおむすび  ▲加藤氏(左)と吉弘氏


 東広島市の西条にはGABA(ギャバ)ライスを使った手作りおむすびを提供する“おむすびのGABA”がある。サタケが展開しているものでテークアウトやイートインで直接消費者に販売する他、同敷地にはGABAライスの米粉で作ったパンを売る店も併設。農機メーカーがおにぎりを作って売る。米粉パンの販売を支援する。そこに最前線の挑戦がある。

 GABAはアミノ酸の一種で、発芽玄米などに多く含まれている天然成分。抑制系の神経伝達物質として脳内の血流を活発にし、脳細胞の代謝機能を高める効果が注目され、ストレスの緩和、血圧上昇の抑制、肝機能の改善、中性脂肪の増加抑制などが期待されている。その栄養素を普段から食べ慣れている白米の状態で摂取できるようにしたのがGABAライスだ。


 サタケが独自に開発したGABA生成装置によって作られ、お米の胚芽部に蓄えられたグルタミン酸からGABA(γ-アミノ酪酸)を生成し胚乳部に自然移行させた後、精米加工でヌカと胚芽を削り取り、無洗米加工を施す。お米が本来保有する栄養素を損なうことなく、GABAを玄米の約3倍、白米の約10倍に増加させ機能性を高めている。ホクレン農業総合研究所とサタケ、北海道情報大学が共同でGABAライスの機能性試験を行ったところ、一定の期間食べた人と食べなかった人を比較した結果、朝の血圧が下がる効果が見られた他、気分や睡眠などの項目では食べた方が、心が穏やか、すっきり目覚めるといった割合が高く、GABAの効用が確認された。


 そんなお米に情熱を注いでいる一人がサタケの経営企画室で推進を担当している加藤昭彦氏(61歳)。「日本のお米を全てGABA米にしたい」と夢に挑戦している。それは新しいマーケットを創造することに等しく、新しい価値を社会に付加するということにも繋がる。「国民の健康に寄与したいという思いがあります」。ストレスの多い社会にあって、リラックス効果をもたらし、現代病とも言われる血圧上昇や中性脂肪増加の改善に役立つということで、人々から待ち望まれている機能とも言える。その思いに応える取り組みの意義は大きい。しかし普及がなかなか進んでいないのも事実だ。「食べてすぐ効果が表れるというものではないので、良さをすぐに実感して貰うことが難しいのです」。継続的に食べていくことが必要で、なかなか効果が見えづらい。


 そこで展開しているのが“おむすびのGABA”だ。2011年に本社近くの西条にオープンしGABAライスの良さを広く消費者にPRしている。この店の他にも東京秋葉原や広島のそごう百貨店に出店し、ハワイのワイキキ店もオープンしている。また、GABAライスを使った多様な商品展開も図り、基本となる“無洗GABAライス”を始め、パックご飯“GABA楽メシ”、“GABA麺”、GABAをサプリメントにした“発芽の若さ”等をラインナップしている。


 これらの普及活動の中で、米生産者との連携も図られている。“おむすびのGABA西条店”の敷地にはGABAライスの米粉を原料にした米粉パンを販売する“パン&マイム西条店”が併設されている。同店では、東広島市河内町小田にある“農事組合法人ファーム・おだ”で生産された“清流小田米”をサタケがGABA米粉に加工し、同組合が製造した米粉パンを販売している。「サタケさんとはWIN-WINの関係。地域社会が連携していかないとこれからの農業・農村は続かない。目指すのは社会循環型農業」と語ってくれたのは農事組合法人ファーム・おだの吉弘昌昭組合長理事(76歳)。本店は小田の集落にあるが「健康に良くて食べれば元気になると言うことだから、私たちが作る米粉パンは西条店だけでなく本店も全てGABA米粉に切り替えました」。各地で農業の6次産業化が進められる中、如何に販売していくかが課題となっているが、付加価値をつけることで消費者に選ばれる商品作りに貢献している。


 ファーム・おだは平成15年に設立された自治組織“共和の郷・おだ”の中に立ち上げられた集落営農組織。「小学校、保育所の廃校、診療所の廃止と集落維持に対する危機の中で、農業を続けるために農地を一つにまとめて農事組合法人となりました」。経営面積約103haに、米、大豆、小麦、飼料米、野菜などを生産し、組合員154名。県内で最も大きな法人となっている。中山間地の気候、小田川の清流、「耕畜連携による堆肥でしっかりとした土作り」、それらを基盤に美味しいお米・野菜を作り地域農業の活性化に取り組む。その中で6次産業にも積極的に取り組み、地元企業であるサタケとの連携を進め、GABAライス米粉のパンを展開している。「健康に良いと言うことがしっかり伝わればもっと売れるはず。将来的にはGABAライスだと思う」と、その可能性に大きな期待を寄せている。人口が減少し、米消費も減る中で、TPP等のグローバル化が進めば、お米の生産量は益々減っていく。「後々は500tぐらいになるのではと思っています。そうなると、この辺りは殆どが水田なので大きな影響を受ける」。それを見越して飼料米の生産や水田での野菜作など様々な対策を行っているが、GABAライスで競争力をつけることもその一つのようだ。


 共和の郷・おだには10年後を見据えたビジョンがある。地域住民の希望を集めたもので、域内にサッカー場や農家レストランなどを作り、草刈ロボットを導入し、多様な農業を展開していくことなどが盛り込まれている。その中にはGABAライスの米粉パンもあり、農業を続けていく一助としての役割が期待されている。それが、地域を持続していくことにも繋がっていくに違いない。「私たちの夢は持続可能な地域を作ること」。それに向かって着実に歩みを進めている。「日本のお米をGABAライスにする」ことがサタケの挑戦だが、それは生産者の挑戦に寄り添うことでもあるようだ。


 GABA生成装置の普及を進め、日本のお米の品質に“健康”という新たな項目を付加し、「お米の力で元気な人を創る」。それがサタケのコンセプト。挑戦がその実現に向かって、一歩あゆみを進ませる。


   
 ▲米粉パン工房パン&マイム  ▲GABAライス