株式会社マーケティングジャーナル

旬の人・多士済々 農機業界人物ファイル


旬の人:井関農機㈱ 代表取締役社長執行役員 冨安司郎氏

国内外で、確固たる地位を
 

 3月26日付で、井関農機㈱の新社長に就任した冨安司郎氏。1958年生まれの61歳。福岡県出身。東京大学を卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行し、2016年3月に同社取締役専務執行役員として入社。2017年1月に取締役副社長執行役員を経て現職に。2025年に100周年を迎える同社の舵取りについて聞いた。
 
 当社は2025年に創立100周年を迎える。私の役割は、これに向けて井関グループをリードすること。そして次の50年、100年のための基礎作りをすることだと考えている。
 中期経営計画で、2025年には「国内・海外市場で確固たる地位を築く」ことを中期ビジョンとしている。そのキーワードは「変革」だ。国内外の市場や環境が大きく変貌しており、今後もその変化は加速していくことが予想される。我々はその変化を好機ととらえ飛躍したい。企業は「人」。設計・開発、生産、営農提案・サービスの専門研修を通して、人材育成の強化を図り、革新的商品・サービスの提供を目指す。基本戦略は、①激変する国内農業への対応強化。②海外事業の拡大。③開発・生産最適化による収益力強化。④成長に向けた積極的な設備投資。⑤人材・ガバナンスによる企業価値向上の5つだ。
 まず国内は、大規模化、畑作への転換など激変する国内農業に対応する。大型整備センターを核とした営業拠点整備と人員配置により広域体制に転換し効率化を図る。また、先端技術や先端営農技術の研究・普及支援に「夢ある農業総合研究所」等を活用し、提案・サポート、サービス強化に努める。商品開発は、大規模化対応の大型機械、先端技術、低価格シンプル、野菜作機械など多様化するニーズに対応する。さらに、当社技術と異業種・ベンチャーが有する技術を組み合わせ、産官学連携によるオープンイノベーションを進める。4月11日に発表した「水稲作におけるスマート農業機械化一貫体系の提案」などを加速して推進していく。
 海外については、欧州、北米、中国、アセアンの4極体制でグローバル展開を進めている。グローバル海外売上高比率40%を目標としている。各地の戦略パートナーとの提携を強化し、グローバルマーケットにおける地位を築いていく。北米は、AGCO社と長年に亘り強固な関係を築いてきた。昨年、同社のグローバル展開において売上に大きく貢献したとして「Partner of the Year」を受賞した。今後も同社との協業を一層強化し、北米を中心に販売エリアの拡大を図っていく。アセアンは、三菱商事と提携し、ISTファームマシナリー社と通じてタイやその周辺国での販路拡大を目指している。中国は、東風汽車グループと連携し、商品力やアフターサービスの強化に取り組んでいく。加えて、昨年トラクタ市場の最大規模であるインドにおいて、同国で強い販売網を持つTAFE社と技術・業務提携を結んだ。同社の販売網を通じた製品の販売のほか、製品、部品の相互供給を行い、インド市場への積極的な展開を図る。欧州は、子会社「ISEKIフランス」を核とし、品揃えの拡充とサービス・サポート体制を充実させる。
 研究開発については、企業理念である「お客様に喜ばれる製品」の提供をモットーに取り組む。省エネ・低コスト農業、安全作業・環境保全、スマート農業につながる研究開発に取り組んでいく。
 当社の強みである「高い技術力」「営農提案・サポート力」「連携によるイノベーション」を発揮して、中期経営計画の達成を目指す。持続可能な社会の実現へ貢献するとともに、企業としても持続的に成長・発展させていきたい。

旬の人:三菱マヒンドラ農機㈱ CEO取締役社長 田中章雄氏

積極的な海外展開を進めていく
 

 4月1日付で、三菱マヒンドラ農機㈱CEO取締役社長に就任したのが田中章雄氏。1961年生まれの57歳。東京都出身で、成蹊大学を卒業後、1984年に三菱自動車工業㈱に入社。以来、海外営業、経営企画、協業企画推進などの部門を歩み、カナダ、メキシコの新市場開拓、欧州販社の再編、電気自動車i-MiEV(アイ・ミーブ)の海外展開などを手がけてきた。日本農業の機械化が成熟する中で、更なる成長を目指すためには海外市場の開拓が不可欠であり、その課題に挑戦しながらの今後の舵取りに期待が集まる。就任の抱負などについて聞いた。
 
 末松前社長が掲げてきた路線を踏襲し、マヒンドラ&マヒンドラ社との提携を通じた、国内事業の再編、それをバネにした海外展開に取り組む。特に私は海外経験が長く、その知見を活かして積極的な海外展開を進めたい。国内市場は成熟産業であり、量の拡大について、国内だけでは限界がある。ASEANを中心にした海外マーケットに目を向けて、拡充を図っていきたい。現時点での弊社の海外事業は、北米に対してマヒンドラ社へのOEM供給を行っており、それがボリュームのほとんど。その他の国については非常に少量で展開国も少なく、全てゼロからのスタートとなる。
 製品開発に関してはコアとなる所には特に力を入れ、マヒンドラ社の知見も入れながら、お互いの技術力を有効活用し、マヒンドラグループ全体を活用した開発戦略を推進していきたい。その中で様々なニーズに対応していくが、低コストに対しては、単に製品価格が安いということのみではなく、当社は2年保証を行い、部品の供給年限も打ち切り後8年から10年超に伸ばし、十分なバックアップ体制をとっている。当社のブランド戦略は“ロングライフ”であり、お客様に長く使って頂くことで総合的なコスト低減をアピールしていきたい。 
 販売店の方々に対しては今まで弊社の農機を販売して頂いた大切なお客様だと考えている。そのお客様を大事にし、ご意見に耳を傾けながら、一緒に国内販売を盛り上げていきたい。
 日本農業は、丁寧に手をかけた、非常に品質の高いものを作り十分競争力はあると思う。しかし農業従事者の高齢化、離農が進み、その中、スマート農業などで省人化・省力化を図っていくことは一つの大きな柱になると思われる。例えばGPSを使った価格重視の提案など、独自性をだしていきたい。またハードの提案だけではなく、営農に関する情報を取得・分析し、提案していく形などを今後発展させていければと考えている。
 私が強みとして発揮したいと思っていることは、リーダーシップであり、改革推進力。三菱自動車の時に新規マーケットとしてカナダ、メキシコの開拓を行い、欧州では販社再編を手掛け、電動自動車i−MiEV(アイ・ミーブ)の海外展開を担当したが、新規参入に関しては何もない所からのスタートとなり、するべきことは山のようにある。しっかりリーダーシップを持たないと先には進まない。様々なチームを編成し、一つのことやっていくことをその時に学んだ。
 私は今迄の経験から、どんな苦境にあってもそれは何らかの意味があり、将来きっと良い事に働いてくると思っている。中国の故事にある「人間万事塞翁が馬」は良い言葉だと思っている。住まいは東京都府中市。趣味はスポーツ観戦。週末は球場に足を運んだり、メジャーリーグを中継で観戦している。家族構成は妻と娘が2人。

多士済々 ㈱諸岡 取締役副社長兼COO 諸岡昇氏

新中期計画を確実に実行する
 

 諸岡は、2019年3月期売上高が184億円と過去最高に達し、新たな中期3ヵ年計画をこのほどスタートさせた。それに伴い組織の機構改革と人事異動を実施。3月まで専務を務めていた諸岡昇氏が取締役副社長兼COOに昇格した。「2021年までに売上高220億円を目指す」とする中で、現在の課題やこれからの取り組みなどについて聞いた。

Q)取締役副社長兼最高執行責任者(COO)となれらました。まずは抱負をお聞かせ下さい。
諸岡)昨年一年間、中期経営計画の策定に取り組んできました。前回の中期計画は2016~2020年までの5年間のものでしたが、前倒しで目標をほぼ達成することができ、2021年までの新中期計画を策定することになったためです。これを着実に実行していくための就任だと思っています。だから抱負としてはこの計画を如何に浸透させ、実現していくかということになります。まずは全社員にこの新中期計画をしっかり意識付けしてもらうことに取り組んでいきます。各部門の事業計画をしっかり達成していくたためにPDCAをしっかり回しながら四半期毎にチェックしていくことを確認し合いました。
Q)具体的にはどのような所に力を入れていかれますか。
諸岡)まずはものづくりです。前職の専務の時からものづくりにもタッチしていましたが、どちらかというと営業の方にウエイトがありました。しかし新体制となり、工場に席を設け、ものづくりに注力していきます。私たちは基本的にものづくりの会社ですから、そちらを強化していかなければなりません。月産台数は現在の台数の20%〜30%のアップは充分可能であると思っています。何とか中期計画のこの3年間でその体制を確立していきたいと思っています。今は需要の方が多くあり、受注の機会を逃している状況です。生産性向上を図り、如何に効率を上げて製品をつくっていくか。それは今大きな話題となっている働き方改革を進めるための一つの方法だとも思います。またそれに伴い、人材の教育・育成も一つのテーマになってくると思っています。工場の方では、若手育成の場をつくっていますが、技術・営業でも中堅、若手の育成をどんどんやっていきます。
Q)近年、ICTの利用やスマート化などにより、製品が高度化しています。どのような対応をされていきますか。
諸岡)機械の自動運転などを筑波大学と共に研究を進めています。オプションでキャリアやフォワーダをラジコン操作できる機器もつくりました。いつでも販売できる体制になっています。またバッテリーで走行することができるキャリアも開発しました。現在の所、エンジンよりも割高で、価格が安定してくれば可能性はあると思います。ただ、作業の継続時間に限りがあり、そこがネック。性能の向上も必要になってきますが、そう遠い将来ではないと思います。
Q)新中期3ヵ年計画について教えて下さい。
諸岡)「Be the Great Niche Co mpany」を掲げています。私たちはどちらかというニッチな仕事ですので、その分野を極め、その分野でのダントツを目指すという意味合いがあります。また合わせて「新しい未知への挑戦」とも記しています。経営理念に“道なき未知を切り拓く”というものがあり、これからはそれをさらに進め、新しいことにチャレンジしていきます。農業の分野もその一つです。キャリアダンプの農業利用や大根ハーベスタのベース部分を提供したり、ゴムクローラフォークリフトでは、JA島原雲仙様に以前からご利用頂いておりますが、今年も20台購入頂きました。トラクタに関しては以前に携わっていましたので、その辺もゆくゆくは復活させたいという社長の意向もあります。
Q)新しい取り組みについてお聞かせ下さい。
諸岡)従来の予算管理は精度があまり高くなく、これからはかなり精度を上げた予算管理を行っていきます。また社内の規定関係を定めました。いわば会社の法律です。その浸透に取り組んでいきます。会社全体での売上が上がり、社会的責任も増えてきました。また、様々なステークホルダーとの関係もあります。売上や利益だけを追い求めるわけにはいかなくなりました。企業として存続していくためにはコンプライアンスも重要です。それらに取り組んでいかなければ、次のステップへ成長していくことができません。それが社員にも理解されてきたと思います。今はもうやるしかないという意識です。
Q)海外展開についてお聞かせ下さい。
諸岡)アメリカに工場があり、ヨーロッパには販売拠点を設けています。また、東南アジアやオセアニアでの売上げも徐々に貢献できるようになってきました。海外比率を伸ばしていきます。3年後には国内と逆転している可能性があります。しかし軸となるベースは国内事業だと思っています。海外は競合もあり、利益率はあまり高くありません。国内である程度収益を出していきたいと思っています。アメリカはものづくりにおいてこちらとは考え方が違い、高く売れるから高くつくっても良いというような風潮があります。そうではなく、コストを下げればもっと利益が出るという考えに基づいて、生産性を上げ、原価を下げ、ものづくりの精度を上げていきます。そうすればグループ全体の収益向上にもっと貢献できるはずです。アメリカでのビジネスをどう展開していくかがこの3ヵ年計画の重要なポイントだと思っています。
Q)これからの課題についてお聞かせ下さい。
諸岡)特に力を入れて取り組んでいきたいのは人材教育ですね。企業は人です。幹部はそれに見合った能力を持っていることが当然ですが、それ以上に部下の教育や周囲とのコミュニケーションが取れなければなりません。それらの能力も備えて本当の幹部です。上層部の意識改革が進めば、部下にも浸透し、その部が変わっていきます。有能な人材を上に配置しないと、会社は成長していきません。今迄はどちらかと言うと年功序列で、人材を登用してきましたが、それを一新しました。有能な人は年齢や勤続年数などに関わらず要職に就いてもらいます。賛否両論はありますが、そうしなければ会社の改革は進みません。会社が成長する中で重要なことではないでしょうか。
Q)事業を進める中で心がけておられることはありますか。
諸岡)常に謙虚さを忘れないでいたいと思っています。私たちはバブル崩壊の時に地獄を見ました。当時の売上は168億まで伸びたのですが、その後33億円まで落ち込んだのです。そしてようやく前期に売上が戻り184億円の最高売上となりました。ただ、それも油断していると、一時のことかもしれません。そういう経験から謙虚さを忘れずにというのが身にしみています。あの思いは二度としたくありません。創業者の語録に「欲深き人の心と降る雪は、積りにつけてその道を忘れる」というのがあります。それを肝に銘じています。また語録は「木枯らし吹くよな寒空に、人に踏まれる野芝でさえも、やがてはホーホケキョの春が来る」というものがあり、厳しいこと、辛いことを何とか耐え忍んで迎えた春を実感しました。そしてもう一つ、「世の中の人に後れを取りぬべし、進まぬときに進まざりせば」とあります。時代は日進月歩で進歩しているので、流れに乗り遅れると停滞してしまうことを戒めています。常にチャレンジを続け、アンテナを張り、これからの事業を進めていきたいと思います。

 

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